今朝、あなたがご両親と暮らしたお家の屋根にも、雪がうっすらと積もっていましたよ。「思わずスノトレ!」ってお玄関から元気よく、あなたが飛び出して来そうだったわ。もう少し待っていたら、あと少し待っていたら、時空を絆ぐこの扉が開いて二人は会えたかしら? 竚む私を見て喜んでくれたでしょうね。昔あなたを大好きになってくれた古い友との感動の再会ですもの。

 あらやだ、お互い老けたわね。お元気そうで何よりだわ。幸せかどうかは知らないけど。
 
 雪降る凍った街角で、そっと覗いた窓の向こう。ごめんなさいね、こっそり後をつけて来ちゃったの。ここは一体何処かしら? 眩しいくらい明るくて、それにとっても暖かそう。
 その日の楽しい晩餐では「若い頃のお父さんはこんなにモテたんだぞ」なんて自慢げに、だけどちょっと照れながら笑い話にしてくれたらいいのかな。そんなゆとりのある素敵な大人になってくれていたら、本当に私はうれしいのかな。だけどそう思えないとやっぱり、会ってはいけないんだろうな。
 でもね、今も私の心の中に住むあなたはね、実はこんな人なのよ。現実の自分とはあまりにも違うからって驚かないでね。
  ひとつ、何処へも行かないやさしい人
  ふたつ、突然消えたりなんかしない人
  みっつ、お腹が出てたり太ってたり、白髪もハゲもあり得ない十六歳の男の子  
  
あの人はずっと変わらないでいてくれる
とても大切でかけがえのない愛しい人
そんなの気に入らなくても構わないのよ
あなたに文句は言わせない
どれもただの幻想だから

会いたくて、会いたくて、たまらない人は
どの街を一軒、一軒、尋ねて歩いても
いくら探しても見付からない
この世の何処にもいやしないから

マッチを一本、また一本
想い出に火を点すたびに現れる
これでじゅうぶん心が暖まるから
やっぱり取り替えるわけにはいかないな
どんなにあなたに会いたくても


 2021 2/19 マッチ売りのおばちゃん






















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