空全体が黄色くなって、人が一日のうちで一番哀しい時間がやって来ました。切なくて見上げた天を子どもみたいにくるりと回し、いつかのあなたを探してみましょうか。拗ねちゃって、どうせまた隅っこにでも隠れているんでしょう? けれど夕暮れが早くなりましたね。こんな私にも待っていてくれる人たちがいます。やさしい人が迎えに来る前にそろそろ行かなくては。じゃあ、またね。
 ところで、あなたは今晩何を召し上がりますか? せめて遠くで同じものを頂きましょう。
 

雨の夜 嵐の朝
懐かしい古巣を見つけた小鳥のように
人も想い出の時と処へ戻れたら

戻りたいと会いたいとでは
哀しい哉
時を経て都合よく似て来るけれど全然違う

大抵は再び出会ってしまう瞬間まで
それに気付くことすらないのかも知れない
だとしたら

大人のあなたを連れては行けないから
ちょっとの間
素直な少女になって、、、私だけ
 

               よう


 天高く馬肥ゆる秋、と言えば体育祭です。そして取りを務める競技なら、今も昔も最高に盛り上がる「クラス対抗男女混合選抜リレー」と決まっています。
 あなたも知ってのとおり、私はスポーツ全般が苦手なのです。球技は特にダメです。人の怨念がボールと化し、顔をめがけて飛んでくるような気がするからです。ですが痩せっぽちだったので、足は少しだけ速かったように記憶しています。
 なんだか嫌な予感がしていました。今日のホームルームで各種目の出場者が決まります。最後の選抜リレーは大逆転も可能な大事な大事な種目です。いわゆる別格なのでとっても慎重に選ばれます。先生が五十メートル走のタイムと氏名を上から読み上げました。嘘! こともあろうに最後のメンバーに私が選抜されてしまいました。つまり、たかが五十メートルのタイムがたまたま少し速かったからと言って、優勝の悲願を背負わされた挙げ句、実際には百メートル以上も走らされるわけです。結果、最初から無理だとわかっているのに仲間の期待を裏切ったと見なされ、何を根拠に戦犯としてその責任を追及されなければならないのでしょうか(拍手なんかされちゃってちょっと動揺)! しかも、ギリギリで選ばれたということは、他のクラスの走者はおそらく自分よりも速いのですから、もうその時点で負けているということになります(号泣)。
 いよいよ当日。秘かに雨乞いでもしたかったけど、憎らしいほどの晴天はまさに体育祭日和でした。時間は瞬く間に過ぎて、もうリレーしか後がありません。スタートを告げるピストルの音、ただでさえ怖いのです。なのに第一走者なんて悲しすぎる。その上「よーい、ドン!」で走り出す私たちは自分の順位が明確で、最も自己責任が詳らかとなるさらし者であります。あゝ無情!
 スタンバイ直前、方々から投げかけられる言葉は「あんた何秒?」あのね、見たらわかるでしょうよ、聞かないで。周りの子はみんなバスケやらテニスやら、激しい運動部で活躍しているカッコいいアスリートばっかし、その迫力に圧倒されます。やがて決戦の時を告げる風が吹き抜ける中、新しい体操服がさも頼りなげになびいているのは私だけ。当然ながら陸上部期待のルーキーもいます。しかもお隣レーン。屈伸してるよ? 本気だよ? こっちはめまいがする。
 それより何より最悪なのは、第二走者はなんと、みきちゃん、あなたなのですよ。あなたはスポーツ万能ですからリレーに出場したって自信たっぷり当たり前でしょうけど、よりによってあなたへバトンを渡すとは。想像して下さい。私は最後方を無様に走り、場合によっては足がもつれて転けてしまうかもしれません。その確率、やや高めです。そして真っ赤な顔はおでこ全開、もうヨレヨレのまま、ヤル気満々鼻息荒く今か今かと待つあなたの手にバトンパスしなければならないのです。そうでなくても真剣な時のあなたは気が短いのよ。走る前からもう、息切れしそう。
 大歓声の中、無慈悲にもピストルが鳴って女子が一斉に走り出しました。もうだめ、もうやだ、このまま家に帰りま~す。運命から逃れるように走ったら、ビリから三番目ぐらいであなたの胸に飛び込めそう! いえ、その手にバトンを渡せそう。ああ、なのに助走が速すぎる。お願い、待って! これ以上、私から離れて行かないで! これが後に心の声が嫌と言うほど叫ぶことになる台詞の、記念すべき第一回目でした。私のゴールはあなたなのよう! ゴールが勝手に動いちゃダメでしょうが・・ あ、遅かったからやっぱり怒ってる? みきちゃん、その顔、怖いよ。
 その後、強いあなたは前との差が大きく開いていたにも関わらず、二人ほど鮮やかに抜いてくれたので、私の責任は追及されずに済みました。大好き!

          
     2021 1/21  ゴールは


















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