原野祐子さん、原野は旧姓になっているでしょうか。
高志です。

あなたと巡り会ってから半世紀が過ぎました。
長い年月を経ても
私にとって祐子と出会い過ごした日々は、今も青春時代の煌めく想い出です。
ほんとうに酷い別れ方をしてしまいました。
あれほど愛してくれた祐子に辛い思いをさせてしまった‥沈む夕陽を追いかける様な後悔は今も心の奥に残っています。
何もかもが「初」という文字で表されていたと言えば言い訳になりますよね?
取り返しはつかないし、祐子の心の傷は消えないでしょう。回想したくもない時代かもしれませんね。

それでも、私があなたを、原野祐子を愛していたのは本当です。
あなたの想いに沿う事に戸惑った私には意気地が無かった。
それで愛は壊れてしまった。
あの頃、私が勇気を持ち合わせていれば蹉跌は明日に変わったのかもしれません。

祐子は私にとってかけがえのない魅惑の恋人だった。
思いを寄せていた祐子に告白されたあの日から、私はあなたに夢中。
相思相愛の日々は薔薇色で楽しかった。
祐子の愛が嬉しくて嬉しくて仕方がなかったのに、学校の成績が上位で、色っぽくて、少しだけ大人な祐子が眩しくて、どこか引け目を感じていつも素直になれなかった。
愛はいっぱい届いていたのに祐子を困らせてばかりいたよね‥

卒業して私は大学へ、祐子は浪人生活に。
一緒に観た映画「追憶」のように歯車が空回りを始めていた。
数年後なら強がる祐子のいじらしい女心は沁みいるようにわかってあげられたでしょう。
でも、華美な大学生活に染まった私は無責任な時を重ね、さよならも告げず傷ついた祐子の前から去りました。
恨まれても仕方のない酷い奴ですよね。

それから五十年。
時折り高校の周辺を歩きます。
校舎や街の姿は変わっても
あの坂道に、この公園に、毎日乗り降りした駅に祐子の面影と甘い黒髪の香りを思い出します。
下校中の後輩達の嬌声に思わず振り返ることがある。
祐子の声が聞こえた気がして。
そんな時、瞼の裏にはあの頃の二人がいる。
帰りたくないから駅まで遠回りしながら歩いたね。
指を絡めて手を繋いだだけで幸せだった。
初キスの時、歯と歯が当たった感覚は何年経っても新鮮な甘酸っぱい思い出です。
祐子は覚えている?
男と女の時間を一緒に彷徨ったよね。
何度もかけたあなたの家の電話番号の末尾は1996。
「祐子はどこでどうしているの‥もう会うことは出来ないのかな‥」
そんな思いが募ってこれを綴っています。
今さら何を‥は百も承知です。
身勝手だけれど、あなたに、初めて愛した人、原野祐子にもう一度会いたい。
氷室の奥で凍りついた二人の恋物語を少しだけ溶かしてみませんか?
その日を待ってます。


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